その音が消える前に、君へ。


しーと人差し指を口に当てて、そっと私の頭を撫でた。


その顔はでも、ちっとも変わってはなかった。


あの時の絢斗くんのままで、すごく落ち着く。



「仕事終わってからの時間、その時間を俺にくれる?」


「もちろんよ」


「じゃあ、俺この本借りて読んでもいい?あの時は俺、紗雪に貸して読んでないんだ」



そう笑って絢斗くんがその本を手に取って、閲覧席へと歩き出す。


ふと足を止め、振り返ったと思えば小さく手を振りまたねと行って進んでいく。


その後ろ姿を見ながら、夢なんじゃないかと思った。


いや、でも夢と思い込んで仕事をサボっちゃダメだ。


高ぶる気持ちを抑えながら、定時までに終わらせる仕事を片付けるために動いた。





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