その音が消える前に、君へ。
その場から逃げるように、榊くんに背を向けて歩き出す。
歩いても歩いても聞こえてくる彼の音に、耳を塞いでしゃがみこんだ。
虫を花も星も、みんなどうしてそんなに一生懸命なの。
彼の音はどうしてあんなに濁って鈍ってしまうの。
聞きたくない、もう何も聞きたくない。
「なんでよっ……」
我慢していた涙が溢れ出ては止まらない。
止めようとしているのに、止まるどころか一斉に溢れてくる。
自分の力が暴走してしまうのではないかと、怖くなって一目散に走りだす。
来た道を我武者羅になって走って行くと、気づけばホテルの見える海岸へと出た。
息が上がっていることに気づき呼吸を整えていると、私の名を呼ぶ声が聞こえまた涙が溢れ出た。
「紗雪!!」
信の声が力強く私の心に響いて、優しく包んだ。
人前で泣かないと決めたあの日以来、泣くことはなかったのに、赤ん坊のように信の胸で泣いた。
なんで泣いているのか、それは信頼のおける信にさえも話すことができない。
力なんていらない、いらない。
――普通に、なりたい。
そんな私の願いは、星たちに届くはずもなかった。