その音が消える前に、君へ。
夕食を食べたらすぐに、天体観測を行うための準備を行う予定だが、私のせいで予定が崩れてしまうのだけは避けたいところだ。
大体覚え始めたホテル周辺の道を真っ直ぐ帰るつもりでいたのに、ヒグラシの鳴き声につられて辿りついたのはホテルの裏側だった。
どこで道を間違えたのだろうと思い返してみても思い出せない。
まあ、辿り着いたのだから良しとしようと、ホテルの木々が生い茂る細い道を歩いていた時だった。
「どうして私が、だめなのかちゃんと教えてよ!」
知らないキンと高い女の子声が奥から聞こえてきて、思わず木々に身を隠しながら息を潜めた。
何か揉めているのだろうか、張り詰めている空気が部外者の私ですら分かる。
道を間違えるんじゃなかったと後悔していると喧嘩相手が重たいため息を漏らした。
「ダメも何もないよ。君には魅力を感じない。それに、君はどこか歪んでる」
「っ!!」
聞こえてくる話の内容からして、告白現場のようだ。
はっきりと告げられた本人の気持ちに、女の子は泣きながらどこかへ走っていく足音だけを聞きながら目を伏せた。
この檻の中であのような感情を一度抱いてしまえば、それを求め続けては自分を苦しめていくんだ。