その音が消える前に、君へ。
思いにふけりながらそっとため息を漏らし、カップに注がれている紅茶が描く水面を見た。
呼び出された放課後の化学室にやって来て、私は小さく椅子の背もたれを鳴らす。
「紗雪、今回のテストも順調だったな」
奥の準備室の扉が開くと同時に、一人の男が現れる。
くたびれたワイシャツを着崩して、さらにだらしない格好をしているというのに、この男はぶれない。
女子生徒に人気なのはこの整った顔のお陰なのか、はたまた人当たりのいい性格のお陰か。
どっちにしろ、この男は人に好かれるために何かをしようとする質ではないのを私が一番知っている。
「そのサラッとした表情やめてくれますー?専属のこの俺の前だけは、表情豊かになろうぜ?」
「元々表情が乏しいんだから、文句つけないでよ」
そう言うとその男――海堂 信(カイドウ マコト)は私の頭を乱暴に撫で回して、どことなく不敵な笑みを見せた。