【完】溺れるほどに愛してあげる
「ちぃさんのお父さんが起こしたとされる事件…真犯人は僕なんですよ」
最後の部分が何度も何度も、エコーがかかったように繰り返される。
…なんて?
陸が、真犯人…?
「ずっとねぇ…腹が立ってたんですよ。
歩きタバコにポイ捨て。害しかばらまいてないあいつをいつか消してやろうって思ってました」
俺の頭が追いつく前に陸は事件のことを話し始めた。
「あの日、あいつの家まで行ってインターホンを押しました。指紋をつけないための手袋もして。呑気に酒の匂いを漂わせながら出てきましたよ。ふつふつと沸き上がるものがあってそれが爆発して…気付いたら持ってたナイフで刺してました」
ケロッとした顔で言う陸に心底肝が冷えたような気がした。
な、何をこんな平気な顔で言ってるんだ、こいつは…
「部屋の中に入ったら机の上に10万円が入った封筒が置いてあって。カレンダーにはちぃさんのお父さんと会う予定が書かれてた。あぁ、借金返済かなって思いましたよね。それで使えるかなって。その封筒も財布の中身も抜き取って帰りました。狙い通り警察はちぃさんのお父さんを逮捕した」
さっき陸が言った隙とはこのこと?
そんなの親父は何も悪くないじゃないか。
借金を返すつもりもあって、親父が逆上することもきっとなかった。
陸が…こいつが何もしていなければ親父は今も…
「まさか亡くなるなんて思ってもみませんでしたけどね」
腕組みをしながら
人生何が起こるかわからないもんですねぇ。
なんて言いのける。
殴りたくて、何発か殴りたくて仕方なかったが、今のこいつには何をしても効く気がしなくてやめた。
「警視監の親を持つって最高ですよ」
権力者…警視監の息子だったのか?
「僕はあの時15歳でしたからね。逮捕されていたら父親のメンツも丸つぶれ」
15歳…?
俺はあの時まだ10歳だった。
は?どういうことだ?
もしかして年齢も全部嘘…
「気付きました?僕とちぃさん、5つも歳が違うんですよ。
でもねぇ、ちぃさんの顔を傍で見たくてこの学校にこの学年で入りました。権力を使って子供である僕の罪をもみ消し、他人を犯人にでっちあげた…その被害者の息子であるちぃさんの顔を見に、ね」
「何を…言ってる?」
「まだ頭が追いつきませんか」