【完】溺れるほどに愛してあげる
「そのまんまですよ。
貴方のお父さんが逮捕されたのは僕が犯人だったから。僕を守るために貴方のお父さんは殺人の罪に問われた」
「お前………!」
「呑気なもんですよねぇ…ずっと今の今まで気付かなかったんでしょう?
…ああ、それと。もうひとついいこと教えてあげますよ。
優愛さんのお父さん──城崎刑事だけは真犯人の存在を疑ってたみたいです。貴方が今まで憎んできた人は、本当は憎むべき人じゃなかったんです。お門違いってやつですよ」
ふふふふふと不気味な笑いを漏らす。
「なぁーのに僕の話を信じて優愛さんと距離を置いちゃって…本当にここ毎日楽しく過ごさせてもらいましたよ」
おかしくておかしくて…と目に涙が溜まるほど笑い始める陸。
俺の方はというと。
何かがプツリと、そしてドカンとはじけ飛んだような気になった。
「こんなこと俺が聞いて…ただで済むと思ってるのか!?」
笑いで肩が震えている陸の胸ぐらを掴みかかる。
ギリギリと詰めあげるが、見上げる陸の目は未だギラリと光っていた。
「思ってないですよ。
ただねぇ、なんだかちょこまかと僕の周りを動き回ってるネズミが数匹いるんです。そのネズミが何か変なことをする前に自分からクライマックスを迎えようと思って」
すると、陸が何かを持って右手を上げた。
俺は胸ぐらを掴みながら少し視線を落とす。
電気の光が反射してよく見えなかったが、それが何であるかはわかった。
──ナイフだった。
「これ、何でしょう?」
「ま、まさか…」
「事件の時、凶器だけが見つからなかったでしょう?
それもそのはずですよ〜
……だって今ここにあるんだから」