【完】溺れるほどに愛してあげる
「ね?ちぃさん」
ニコリと目線を合わせたかと思うと、身体中に激痛と衝撃が走った。
「ぐあぁっ!!」
ナイフが刺さった腹部から熱が広がっていく。
──なんだこれ、なんだこの痛さ…苦しさ…
「あぁ…懐かしいこの感覚…刃が肉を突き破っていくこの感触…ずっとずっとこの瞬間を望んでいたんですよ〜
僕がちぃさんをお父さんの元へ連れて行ってあげますね」
痛みが全身に回って、何が何だかわからなくなる。
意識が遠のきそうになったその時…
「千景!!」
大好きな、愛する人の声が聞こえたような気がした…
でも、こんなところにいるはずがない。
だって俺はあんなに酷い態度をとってしまったんだから。
あぁ、目の前に親父が見える。
これは幻想。
さっきの優愛の声も幻聴だろう。
親父に右手を伸ばす。
届きそうで…届かなくて。
ごめん、ずっと気付かなかった。
親父の敵はすぐ傍にいたのに。
俺のことを見ていたのに。
…ああ、優愛に会いたい。
幻聴なんかじゃなくて本物の優愛に会いたい。
会って謝るんだ。
そして、伝えたい。
「ずっとずっと優愛のことが好きだったよ。愛してる…」
ふつりと意識が途絶えた。
--Chikage:Side End--