【完】溺れるほどに愛してあげる
「あ…」
その瞬間にあたしのお父さんの袖口あたりから1枚の花びらが落ちる。
…何の花びらだろう?
対するお父さんは気付いていないようだった。
「親父のところに…行ってもいい?」
「もちろん!」
千景はお母さんと仲良さそうに話しながらあたしの前を歩く。
どこか疎外感を覚えながら、でもその良好な親子関係に安心した。
「親父…全部、全部終わったよ」
手を合わせながら目をつぶった千景は優しく語りかけた。
「城崎刑事…ずっと来てくれてたんでしょ。この花も、今までの花も全部…」
千景の声が少しだけ震える。
涙をこらえているのかもしれない。
「お父さん…ずっと後悔してるって言ってた。だからと言って千景のお父さんが帰ってくるわけじゃないけど…」
今、お父さんがどう思っていようが、何をしようが、千景のお父さんはもう戻ってこられない。
起きてしまった事実はどうしようもない。
だけど…
「親父は、こんなこと望んでなかったと思う。俺がこんな風に誰かを憎む、なんて。
親父はきっと俺に真っ当に生きてほしかった。だから俺も前を向くよ」
「千景…」
その時の千景の顔には、いつか見た時のような悲しみは微塵も含まれていなくて。
ただただ清々しい、眩しい笑顔だった。
*
「それじゃ、お母さんはこの後出かけるから…また帰る時メールするわね」
お墓を出たところで、千景のお母さんがそう言ってニコリと笑う。
まるで、
後は若い2人にお任せして…
っていうどこかのお見合いのようで。
なんだか変な気を遣わせてしまった。
「家…来て?」
そんなに熱のこもった瞳で訴えられたら断れないよ…
「う、うん…」