【完】溺れるほどに愛してあげる


「あ…」





その瞬間にあたしのお父さんの袖口あたりから1枚の花びらが落ちる。


…何の花びらだろう?


対するお父さんは気付いていないようだった。





「親父のところに…行ってもいい?」

「もちろん!」





千景はお母さんと仲良さそうに話しながらあたしの前を歩く。


どこか疎外感を覚えながら、でもその良好な親子関係に安心した。





「親父…全部、全部終わったよ」





手を合わせながら目をつぶった千景は優しく語りかけた。





「城崎刑事…ずっと来てくれてたんでしょ。この花も、今までの花も全部…」





千景の声が少しだけ震える。


涙をこらえているのかもしれない。





「お父さん…ずっと後悔してるって言ってた。だからと言って千景のお父さんが帰ってくるわけじゃないけど…」





今、お父さんがどう思っていようが、何をしようが、千景のお父さんはもう戻ってこられない。


起きてしまった事実はどうしようもない。


だけど…





「親父は、こんなこと望んでなかったと思う。俺がこんな風に誰かを憎む、なんて。
親父はきっと俺に真っ当に生きてほしかった。だから俺も前を向くよ」

「千景…」





その時の千景の顔には、いつか見た時のような悲しみは微塵も含まれていなくて。


ただただ清々しい、眩しい笑顔だった。





「それじゃ、お母さんはこの後出かけるから…また帰る時メールするわね」





お墓を出たところで、千景のお母さんがそう言ってニコリと笑う。

まるで、


後は若い2人にお任せして…


っていうどこかのお見合いのようで。


なんだか変な気を遣わせてしまった。





「家…来て?」





そんなに熱のこもった瞳で訴えられたら断れないよ…





「う、うん…」

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