【完】溺れるほどに愛してあげる
「あれ、まだ3時…?」
自然と目が覚めてしまった。
見覚えのない天井と高そうな家具のおかげで、亮くんの家にお泊まりしに来たのだと寝ぼけた頭でもはっきり思い出すことができた。
時計を見ると午前3時。
外はまだ薄暗い。
そして窓からは大きな樹の葉がファサファサと揺れているのが見えた。
…少しだけ風に当たろうかな。
そう思って外に出る。
「あれ…?」
先客がいた。暗くてもオーラでわかる。
「寝れないの?」
声を聞いて確信する。
金田だ。
灯りがちょうど彼に当たって、暗い中で金色の髪が風になびいていた。
「目が覚めちゃって。そっちこそどうしたの?」
「俺も目が覚めた」
「…そっか」
会話が途切れる。
2人の間に流れる沈黙。
どこかで虫の声がするような気がした。
「亮くんって…こんなにお金持ちだったんだね。ちょっと意外」
何か話題をと思って口に出たのか、ただ思ってることがそのまま喉を伝って出たのか、どちらかわからない。
気付いたらそう言っていた。
「…金持ちなのに何で不良なんだって思った?」
「え…どうしてわかるの?!」
不良って言ったら…お金持ちのイメージなんてない。
そんな亮くんがどうして…?
ここに来てからずっと疑問に思っていた。
「あんたの考えそうなことだから」
金田は少し歩いて、大きな樹の近くにある柵にもたれかかった。
あたしも彼のあとをついていく。
ちょっとした丘のようになっていて、ここから下を見渡せる。
金田は柵にもたれたまま、たくさんの民家を眺めて呟く。
「金だけが全てじゃないよ」
そうして亮くんの家を再度見て
「こんなにデカい家を建てられても、家族をないがしろにしてたら…ね」
「もしかして…」
「親父さんは別のところにいるよ」
どれだけ仕事が忙しくても毎日コミュニケーションをとってくれていたお父さんを持つあたしには亮くんの寂しさとか辛さとか悲しさとか…きっとわからない。
「家族旅行も多分、母親と姉さんだけで行ってるんじゃないかな」
「そう…なんだ」
「そういうやつ全員が不良になるわけじゃないけどな」
亮くんの家を見つめる金田の横顔を、あたしは見つめていた。
ふと、気付く。
いつか見たような金田の悲しみを帯びた瞳。
もしかして…
「…金田も…?」
これは聞いてはいけなかったことなのかもしれない。
それでも…
あたしは金田のこの瞳を見て、助けたいって思った。
毎日が楽しくないと言う彼に、楽しさを感じてほしいと思った。
少しでも貴方に近付きたいと。