消える世界で、僕は何度でも君に会いにいく。



いつも、いつも目で追っていた。


手を伸ばしても届かないと思っていた人。



今はこんなに近くにいる。


だけど。



ホームに電車が入ってくる音も、踏切のけたたましい音も、周りの音が聞こえない。


彼女の声、聞こえていて受け答えもできるのに、どこか遠くて。


視界に映る全ての動作が遅く見えた。


手すりを掴む手のひらの感覚が鈍い。



軽く雑談した後、その場で別れた。


その後の行動は、ぼんやりとしか覚えていない。


気づけば自室にいて、ベッドに顔を埋めていた。


どうやって帰ってきたのか、改めて考えるのも億劫だった。



遠く聞こえていた音が今はクリアに聞こえて、むしろ嫌でも耳に入ってきて振り切りたいほどだ。


1秒1秒を規則的に刻む時計の秒針の音が気になって仕方がない。


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