眠り姫は夜を彷徨う
今まで血なまぐさい喧嘩や決闘の場なんか幾らでも目にしてきたし、自分自身もそれなりに場数を踏んできた。

だが、あんな衝撃は初めてだった。

あいつの立ち回りは本当に見事で。綺麗としか言いようがなかった。ガラじゃないが、そんな光景をいつまでも見ていたい、とさえ思ってしまう程に。その場を目の当たりにする度に、気持ちが高揚していくのを抑えられなかった。


こんな気持ちになるのなんて予想外だ。

とにかく掃除屋のことが気になって仕方がない。

勿論、自分の野望を形にする為の『鍵』になる人物だということも理由の一つではある。だが、そんなことよりも何よりも…。


また、会えるといい。

そして今度こそ、その素顔が見たい。


そう切に願ってしまっている自分がいる。

こんなこと立花に話そうものなら「随分なイレコミ具合ですね」とか笑われてしまいそうだ。

そこには、単に『逃げられると追いかけたくなる』という人間の心理が働いているのかも知れない。

(だからって、別にオレは、いつまでも鬼ごっこをしたいワケじゃねぇし。流石に、逃げられっぱなしってのも情けねぇしな…)

いい加減、奴を振り向かせて話を進展させたいと思っている。

だが、昨夜は空振りだった。実際、追い掛け回している時の方が当然体力的には疲れるのだが、いなければいないでこんなにも疲労を感じてしまうのだから困ったものだ。


「「はぁ…」」


桐生は再び、何度目か分からない重い溜息を吐いた。

だが、今度は何故か自分一人だけの溜息ではなかった。誰かのものと偶然ハモったようだ。

驚いて後ろを振り返ると、そこには見知った少女が俯いて歩いていた。
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