Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜
あらためて席につくと、すぐにスープが運ばれてきて、会食となった。
並べられたスプーンに手をのばそうとしたミュアは、
左斜め奥からそそがれるつよい眼差しを感じて、どきりとした。
視線を感じていたのは式が始まってからずっと、
そちらには、ソフィーニア=フォッテンが、兄とともに座っている
はずだから。
でも、こんなに強く、長く、そそがれてはいなかった。
今の、髪が絡まって離れられなかった光景が、彼女の気に
さわったのだろうか。
つかのま忘れていた、とろりとした濃さのある苦みが戻ってきて、
ミュアは胸に手をあてる。
ミュアはつとめてソフィーニアのいるほうには目を向けないようにした。
本当は彼女がどんな様子か確かめたい、けど、目をあわせたくはない。
なんでもないように手をのばしスプーンをとろうとして、
ミュアは、もしかしたらソフィーニアの他にも、自分を凝視している者が
いるのではないか、とふと思った。
ソフィーニアとグレイの仲を知っていて、一列さがったところにいる彼女と、
あたりまえのようにグレイのとなりに座っているミュアを、見てる者。
その者の顔にうかんでいるのはソフィーニアへの同情だろうか、
それともなにも知らずに嫁いできたミュアへの憐れみの表情だろうか。
突然、スプーンが握れなくなった。
震える手があたって、スプーンやナイフがカチカチ音をたてる。
「ミュアリス?」
名を呼ばれ、ミュアが顔をおこすと、グレイが怪訝な顔をむけている。
「スープが口にあわないのか」
「い、いいえ、そういうわけでは」
そう答え、スプーンを取ろうとしたが取りそこね、またカチンと音がたつ。
すると、グレイが黙ったまま、左手でミュアの右手をつつみこんだ。