Lie × Lie 〜 アルメリア城恋物語 〜


 その時思いついたのは傷ついたあのオーガのこと。

 すぐトラビスに、あのオーガを手元に置いて面倒を
 見たいのだとミュアは訴えた。

 反対されると思ったが、トラビスはあっさりと頷き
 この場所を用意してくれた。
 獣医も町から直接やってくるし、ミュアが城から
 問題なく抜けだすためにクロエと衛兵が数人、
 このことを知っているが、あとは誰にも知られていない。



 傷ついたオーガは、最初こそ人を近づけさせなかったが、
 腕のいい獣医とミュアの惜しみない愛情のおかげでだんだん
 おとなしくなり、トパズと名づけられ、
 二ヶ月もたつ今ではすっかりミュアになついている。


 そのうえミュアが最高に嬉しかったのは、トパズが
 身籠っているとわかったことだ。

 だからあんなに、ホロニカの匂いに反応したのだろう。


 ーー オーガの赤ちゃん ー ー!

 オーガの赤ちゃんをこの腕に抱くことができるなら、
 自分は子供を望まなくてもかまわないとミュアは思った。


 アルメリオンでは側妃の子供でも王位継承権は与えられるし、
 グレイも愛するソフィーニアとの子に王位を継がせたいと望むだろう。

 余計な継承の問題を起こさないためにも、愛情のない行為で
 生まれる子に不憫な思いをさせないためにも、
 自分が子を持つことはあきらめたほうがいい、とミュアは考えた。


 トパズがいて、その子がいてくれるなら……。


 グレイが義務とソフィーニアへの愛情の間で苦しまなくてもすむよう、
 今、ミュアはグレイとの間に距離をおいている。
 
 まだ、” 側妃をおむかえください “ とは言えてないけど、
 トパズの傷が完全に癒えたらちゃんと、グレイに伝えよう ー ー。


 そう、ミュアは心に決めている。





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