大切なものを選ぶこと




すっと音もなく、純さんの上手な運転で車が停止した。





「着きやした。秋庭…本家です」





純さんに促されて車を降りると、ここが都内であることを忘れてしまうような感覚に襲われた。






時代劇に出てくるような、横に長く続く塀とどっしりと構えられた門。





門の横の表札には達筆で『秋庭組』と書かれている。






「待ってたよ美紅ちゃん、いきなりごめんね。おやっさんの命令だから純さんのこと責めないでやってね」





「高巳もグルだったのね…」





門の横で不敵に笑う高巳。






「いやー、上司の上司の命令には逆らえないよ」





「弘翔は?」





「感づいたらしく、今こっちに向かってるよ。さっき電話で凄い剣幕で怒鳴られた」







‘俺悪くないのになー’なんて言って笑う高巳。




純さんは車を置きに行ってしまった。






「じゃ、行こうか美紅ちゃん」





「え!?弘翔待とうよ!」





「何言ってんの。弘が来ちゃったら純さんが頑張って美紅ちゃんのこと拉致った意味ないでしょ」






「あー…というか、純さんホントに私のこと拉致ったつもりだったんだ…」






「ん?どゆこと?」





「いやさ、純さん大学の前で『すいやせん美紅さん!何も聞かずに俺に拉致られてくだせえ!!』って土下座するんだもん…」






「は?……ッッまじか…ハハ八ッ!」






言えば、高巳は堰を切ったように笑いだした。





終いには笑いすぎてむせてるし…






「いやーさすが純さん。あの強面で…ッッ…」





「意味は全く分からなかったんだけど、土下座をやめてほしくて…」





「大人しく拉致られてあげたってわけね」






だって…スキンヘッドでサングラスの人が土下座してたら、シュール通り越して…怖い。





土下座をやめてもらうには大人しく車に乗るしかなかったんだ。






「純さんは許してあげてね。あの人、最後までそんなことできませんって断ってたからさ。結局、おやっさんが美紅ちゃんを一人で連れてこなかったら純さんを弘の護衛から外すって脅して、仕方なくって感じだから」






高巳の言葉に小さく頷いた。





純さんの人柄を知っていれば怒れるはずない。





それより…私を一人で呼んだ組長の方が…







私がビビっているのを横目で見ながら、高巳は笑顔で門を開けた。







え、?





開けた…?





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