大切なものを選ぶこと


厳かに開いた門の先には…黒いスーツに身を包んで頭を下げる人たちが列を成している。




その先には武家屋敷のように立派な日本家屋。




庭は日本庭園そのもので、池に獅子落とし、縁側もある。




松の木や桜の木、梅の木まで植えてあって…





何が言いたいのかというと、めっちゃ広いってことだ。






高巳に連れられて玄関までの飛び石を歩く。






「この人が弘の大切な人だ」





「「「「承知」」」」






玄関までついて、振り返った高巳が言うと頭を下げていた人たちが一斉に顔を上げて低く言った。





その迫力に思わず息を呑む。





私が今まで見てきた世界とこの世界は、あまりにも違いすぎる。





これが…極道の世界…








‘入って’と高巳に促され、家に足を踏み入れた。




静寂に包まれる家の中は微かに畳独特の匂いがする。









──雰囲気が一変して言葉を発さなくなった高巳と長い廊下を歩く。





広すぎる廊下を静かに歩いて、目的の部屋の前で高巳は足を止めた。






そして、襖の前に片膝をつく。






「…親父、連れてきました」





今まで一度も聞いたことのないような高巳の声。





緊張と不安といつもと違う高巳。ただでさえ速かった鼓動がますます速くなる。






「入れ」




中から聞こえてきたのは、弘翔とよく似た、だけど弘翔よりも低い声。




その声に高巳は‘失礼’と小さく言ってからスッと襖を開けた。






襖の前で躊躇している私に高巳は優しく笑ってから、『大丈夫だから』と遠回しに入ってと促した。





部屋の前で立ってるわけにもいかず、恐る恐る足を踏み入れる。







「親父、この人です」





「ご苦労。下がれ」





「承知」







上座に向かって深く頭を下げた高巳は私に少し笑ってから、また音もなく部屋を出た。







──高巳が去ってしまい、どうすればいいのかわからず、恐る恐る…上座に顔を向けると…




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