大切なものを選ぶこと
──しまった…!!
と思った時には完全に迷子になっていた…。
うだうだ考えながらぼーっと歩いていたせいだ。
ここどこ?
来た道を辿っていたつもりだったんだけど、段々と人が少なくなったかと思った時には全く人がいない所まで来てしまっていた。
どうやら本殿の裏側に来てしまったらしい…。
本殿の裏側には人の気配がほとんどなく、闇と共に林が広がっている。あまりにも不気味で鳥肌が立った。
急いで戻らないと弘翔が心配する…と思いつつもどう戻ったらいいのかさっぱりだ。
考え事なんかしながら歩くもんじゃないな…と反省。
いそいそとこの場をあとにしようとしたその時──
「……高巳さん」
聞き覚えのある、だけどおそらく今は絶対に聞いてはいけない声が聞こえてきてしまった。
タイミング最悪…。
ここで物音をたてるわけにもいかず、本殿の陰に急いで隠れる。
そこにいたのはやっぱり高巳と葵ちゃんで、ここで出ていける雰囲気ではない。
高巳はいつもと同じスーツ姿で、葵ちゃんはピンクの布地の浴衣。
今がどういう状況かなんて一目瞭然で、聞いていていいはずがないのも重々承知している。
だけど、今は動ける状況じゃない。
下手に動けば二人に見つかって気まずくなってしまうのは目に見えている。
自業自得だけど完全に詰んだ。
二人に見つからないことを願って大人しくしとこう…。
「お嬢、俺は祭りの総責任者を任されていますので仕事に戻ります」
「その呼び方しないでください!」
「仕事中ですので」
「前は…前はそんな呼び方しなかったじゃないですか。話し方も!昔は敬語なんて使わなかったのに…ッ!!」
「あの頃は俺も若かったので。大変な無礼を働きました。お許しください」
「そういうことを言ってるんじゃないんです…!!」
聞いてはいけないと思いながらも耳に入ってきてしまう二人の会話。
葵ちゃんの声が震えているのにも気付いてしまった。
「では何が言いたいんですか?」
「ッッ、好きなんです…!」
「…………」
「中学生の時からずっと好きで、好きで…どうしようもないくらい…高巳さんのことが好きなんです…」
「…………」
「私が何歳になったら…どうしたら…私を私として見てくれますか?好きになってほしいなんて言わない、でも…昔みたいにちゃんと私のことを見てほしいんです…」
「…………」
「…………」