大切なものを選ぶこと
葵ちゃんの涙を堪えようとする嗚咽だけが辺りに広がる。
どれくらいの時間が経ったのかは分からない。
二人とも話さない時間に終わりを告げたのは高巳の困ったような溜息だった。
「葵ちゃん。いくつになった?」
「えっ…?」
「…………。」
「18歳…です」
「18か。俺が君の護衛兼教育係として付いたのが俺が20歳で君が9歳の時だったかな。もう9年以上経ったのか。大きくなったね」
「高巳さん…?」
「何度も君に告白されて、その度に子供の戯言だと一蹴してちゃんと返事をしなかった。ずっと子供だと思ってたけど、もう子供じゃないんだな」
葵ちゃんが息を呑んだのが分かった。
高巳がこんな風に葵ちゃんに話しかけるのを初めて見て、なぜか私の鼓動が速くなる。
「こんなおっさんのどこがいいのかね…」
「全部です。小さい頃からずっと私のことを大切にしてくれたところも、守ってくれたところも、本気で叱ってくれたところも、笑った顔も怒った顔も…全部大好きです」
「…………。」
「…………。」
「仕事だったからだよって言ったら?」
「それが嘘だってわかっちゃうくらい高巳さんのことが好きです」
「参ったね。いつの間にこんな強い女性になったんだか」
「高巳さんはずっと私のこと小学生だと思ってますよね…。一人の男性を心から愛せる位には成長しましたよ」
「そっか…」
「そうです」
高巳が小さく笑ったのにつられて、葵ちゃんの口角も上がる。
二人の間にいつもの殺伐とした空気は皆無だ。
「じゃあ回りくどいのは無しだ。歳の差を理由にも仕事のせいにもしないよ」
「…………」
「俺は君の気持には応えられない」
初めて見る顔の高巳。
いつもより低いトーンの声が辺りに響く。
無意識に、え…?と言ってしまいそうになる。
「ほ、他にっ…好きな人がいるんですか…?」
震える声で尋ねられても高巳は表情を崩さない。
「そうじゃない「じゃあなんでっ!!」」
高巳の言葉を葵ちゃんの涙声が遮った。
我慢していたであろう涙がとめどなく頬を伝っているのが遠目でもよくわかってしまった。