大切なものを選ぶこと
「ちっ、違いますよ!!」
慌てて言って、秋庭さんの視線から逃れようとするも、鋭い眼光は逃してくれなかった。
「……………。」
「あの…本当に…暴力は振るわれてないっていつも言ってるじゃないですか…」
そう言うとやっと視線を外してくれた。
そして…持っていた缶を煽った秋庭さんは、
「……俺には美紅に何かしてやることはできない。だからその嘘に騙されてやることにするよ」
そう言った。
いつもと同じ低くて掠れた甘い声だったけど、その横顔はひどく悲しそうだった。
私は…秋庭さんの悲しそうな表情に気付かないふりをした。
この人に迷惑をかけるわけにはいかない。
「だから、嘘じゃないですって!今日の朝に階段で転んじゃっただけですから!!」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
気まずい沈黙が流れる。
いつもは無言でも全然気まずくなんかなくて…むしろ心地いいのに…
秋庭さんは怒ってるのかな…
そう思ってチラリと横を伺うと…秋庭さんは怒ったような…寂しそうな顔をしていた…。