大切なものを選ぶこと



「そろそろ…帰りますね…」




そう言って立ち上がろうとすると、‘待った’と秋庭さんに腕を引かれた。






「送ってくよ」





「いや、大丈夫ですよ!」





断っても離してくれず、薄く笑うだけの秋庭さん。




スマホを取り出してから、





「あー…怒られるか…いや、でもなぁ…どうすっかな…」





と、ぶつぶつ言いながらどこかに電話をかけ始めた。







──秋庭さんの電話が終わったのを見計らって、





「本当に歩いて帰れますから!」



と口を開けば…





「大人しくしときな。
傷が開くぞー」




軽くあしらわれた。







「タクシー呼んだから、今日はそれ乗って帰れ、な?」





「歩いて10分もかからない距離ですから!」





「そうかそうか、お、来た来た」





「人の話聞いてます!?」





「おー聞いてる聞いてる。
あ、あれだな」






私を軽くあしらいながらタクシーに向かって手を挙げる秋庭さん。







「──おっちゃん、この子、家まで送ってやってくれ」





「兄ちゃんは?」





「俺は歩いて帰れる距離だからな。この子のこと頼んだ」





「おー兄ちゃん紳士だなぁ!しっかり家まで届けるよ!」






私に存在がないかの如く話が進んでしまった…





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