大切なものを選ぶこと
店内に戻ると美紅は完全に寝ていた。
この子はもう少し警戒心を持った方がいいと思う。
「どうだった?噂の秋庭さんは!?」
話の輪から抜けてきた加奈に声を掛けられた。
「なんか…ヤバかった…」
「え?」
「実物はもっとヤバいのか…」
「そんなにヤバかったの?てか、何がヤバかったの??」
「全部…」
うん、なんか…説明できないけど色々ヤバかった…。
実物ならあのナルシストを一発で撃退できるだろう…うん、間違いない。
そうとも知らずにナルシストは美紅のことお持ち帰りする気満々だし。
「そろそろいい時間だしお開きにしましょーよー」
加奈が少し酔ったふりをしながら男性幹事に声を掛けた。
さすがに幹事の男性は常識人だけあってナルシストのことを止めてくれてはいたけど、これ以上は収拾がつかなくなってしまう。
飲み始めて2時間半くらい経っていて、もういい時間だ。
「じゃあもうお店出ようか!始めに言ったように支払いは俺たちが持つから!」
今日の合コンはかなり男性側の意向が強かったこともあって全部あっちもちだ。
あまり気分のいい飲み会ではなかったけど、美味しいご飯とお酒をタダで食べれたと思えば我慢できる。
ただ…このお店、結構いい値段するから少し申し訳ない。
「おいおい!こっちが払う約束だったけど、連絡先の一つも教えてもらえないってありえねーだろ!」
「タクミ!」
「金払うから、ヤルことやらせてもらうぜ?」
寝ている美紅の頬を撫でて言うタクミさん。いやナルシスト。
幹事さんはとめているけど、他の二人は冷やかしている。
「…ん……あ、きば…さん…?」
「いや秋庭さんじゃねーけど…美紅ちゃんほら酔い覚ました方がいいからお茶飲んでお茶!」
「んーありがとー」
寝ぼけている美紅に緑色の液体が入ったジョッキを渡すナルシスト。
「ちょっと!タクミさん!それって緑茶ハイでしょ!?」
タクミさんに向かって由美子が怒鳴ったけど、ナルシストはどこ吹く風で…
「ただの緑茶だよ。それに…言ったでしょ?ヤルことはやらせてもらうって」
と言い放った。
ちょっと待って、今の状態の美紅がこれ以上アルコールを摂取したら本当にマズイ!笑い事じゃ済まなくなる。
私も由美子も加奈も美紅を止めようとしたけど、美紅の隣のナルシストがそれを許してくれなかった。