大切なものを選ぶこと
「美紅、もうあんた無理だから彼氏さん呼びな」
もうほとんど寝ている美紅を肘でつついて声を掛ける。
‘あー’とか‘んー’とか曖昧な声が聞こえてくるけど…ダメだこりゃ。
「みーくー!携帯どこ?電話かけて彼氏さん呼んであげるから携帯貸して~」
「んー…あ、きば…さん?」
「そうそう、秋庭さん呼んであげるから携帯貸して」
「ん~、カバンの中~」
それだけ言うと美紅は完全に寝落ちしてしまった。
隣に座っているナルシストはニヤニヤしながら美紅の寝顔を凝視している…変態か!!
──「由美子、加奈、私ちょっと外で電話かけてくるから美紅のことよろしくね」
二人に声を掛けてから美紅の携帯を持って店の外に出た。
由美子も加奈もお酒強いし、普通にいい雰囲気で男性陣と飲んでるから大丈夫だと思うけど…問題は厄介なナルシストに気に入られてしまった美紅だ。
彼氏さんが迎えに登場してくれれば諦めてくれるだろう…いやでも、あいつナルシストだし…。
えーっと、秋庭、秋庭…
頭の中でぶつぶつと唱えながら美紅の携帯の電話帳を見る。
あ行だったのですぐに‘秋庭さん’の文字を発見できた。
──『……美紅?』
ワンコールもしないうちに秋庭さんが出てしまい、思わず心臓が跳ねた。
そして何より…声がヤバい。ナニコレやばい…。
美紅がいつも秋庭さんのことを惚気るときにイケボすぎてヤバいって悶絶してたけど…これは…確かにヤバい…。
電話で耳元だからか…低くて甘くて…いい声すぎる。
『美紅?』
一人で脳内討論してた私を訝しく思ったらしく、もう一度声がかけられた。
うん、やっぱ声ヤバい…。
『あ、あの!私、美紅じゃなくて…。あの子、潰されちゃって。ホントすいません…』
『あぁ…それでか。何かあったのかと思っちゃいました。迎えに行くので店の名前教えていただけますか?』
『えっと…駅前の〇〇って店です』
『わかりました。すぐに向かうので5分くらいで着きます。申し訳ないんですが、それまで美紅のことよろしくお願いします』
『は、はい』
そこで電話は切れた。
心臓がバクバクいってる気がする。
イケボと大人の余裕ハンパない…。
声だけでイケメンなんだなってわかってしまった…。