大切なものを選ぶこと
─弘翔side─
「ん…あきばさんの…ばーか……」
「…………。」
「あーほ…」
「…………。」
「わたしばっかり…すきなんだ…あきばさんのばー、か…」
「…………。」
凄い言われようだな…。
帰り道、タクシーや車は使わずに夜風に当てられながらゆっくり歩いていると、背中から寝ぼけた声が聞こえてくる。
横抱きは目立つと思って背負ったが…これはこれで失敗だったか…
一応、俺も健全な男のわけで…愛してやまない女に耳元でそんな可愛いこと言われたら理性が…ヤバい…。
「あきば、さんはー、わたしが男の人とのんでても平気なんだぁー…!」
「平気なわけないだろう」
「いっつもー…わたしだけ好きみたいー」
「んなわけあるか」
勘弁してくれ。
俺が今、どんだけ我慢してるかわかってないだろう…
飲み屋で美紅の隣に座っていた男を本気で殴り殺したくなったとか…わかってないだろ。
人より強い独占欲を出さないように俺がどんだけ我慢してるか…わかってないだろ。
「あきばさーん…!」
「んー?」
「ほんとは…もっともっといっしょに…いたいんですよー!」
「…………。」
「週に1回とか2回じゃたりなーい!いっぱい…会い、たい…です…」
「なぁ美紅。一緒に…「…………。」」
「…………。」
「…………。」
「…………。」
「おい…このタイミングで寝るか…?」
言いたいことだけ言い逃げして背中で寝息を立てている俺の愛しい人に思わず笑みが零れた。
あー…こりゃ参った。可愛すぎる…。
ずっと一緒に居たいのも、四六時中一緒に居たいのも俺の方だ。
極道の男の独占欲、嘗めんな。
明日、起きた美紅としっかり話をしないとだな。
俺がどれだけ嫉妬深くて、どれだけ美紅のこと好きなのか知ってもらわなくては…。
美紅に呼ばれる『秋庭さん』もグッとくるが…
そろそろ下の名前で呼んでもらうかな。