王太子の揺るぎなき独占愛
ファウル王国は広大な国土を誇り、その周囲にそびえる二千メートル級の山々からなる山脈が国を取り囲んでいる。
国境付近は山脈が壁となり簡単に行き来することができないのだが、外敵の侵入を防ぐにはちょうどよく、国内は長く平和な日々が続いている。
緑豊かな山脈は、治水能力も高く、ファウル王国の農業の発展に大きく寄与している。
そして、山脈の麓から国の東西に広がる平野では農業が盛んで、野菜や果物、そして小麦などが作られている。
鉱物や宝石などの資源も豊かで、その採掘技術もかなりのものだ。
国民を思いやる優しい心と、国益を守るためには厳しい決断も辞さない強さ。
その両方を兼ね備えた国王ラルフのもと、ファウル王国は長きにわたり繁栄を続けている。
国民は王家を尊重し、敬い、それぞれの仕事に誇りを持ちながらつつがない生活を送っている。
サヤは筆頭公爵家、ルブラン家の分家に生まれ、物心がついたころには王家の森で過ごしていたが、十八歳を過ぎてからというもの、いくつかの結婚の話が舞い込んでいる。
「今のままで十分幸せだから、放っておいてほしいのに……」
森の奥にある離宮の扉を開けながら、サヤはぽつりとつぶやいた。
森を歩くのにちょうどいい簡素なワンピースと歩きやすい靴。
どちらも所々に土の汚れがついているが、サヤが気にすることはない。
普段から動きやすく、草花を採取するのに適当な服を着ることが多いが、気づけばここしばらく華やかな服装をしていないと思い出す。
森で過ごすことを優先しているせいで、舞踏会への招待を受けても出席することは滅多にない。
キレイなドレスを身にまとい、おいしいものを食べるよりも、森の状態を確認している方が心が落ち着くのだ。