王太子の揺るぎなき独占愛
「ジュリア様は洋ナシのパイがお好きだから、食欲がなくても少しくらい食べてくださるかしら」
サヤは食べごろの洋ナシをいくつか籠にいれ、城へと戻る。
途中、薬草を育てている場所に立ち寄ったが、どれも順調に成長していた。
サヤは広い薬草畑を見回しながら、ちゃんと手入れがされていることにホッとしながらも、寂しさも感じた。
たっぷりの日差しと気持ちのいい風を浴び、薬草だけでなく森の木々たちはみなキラキラしている。
愛情をかけて手入れされ、成長の妨げになる枝や雑草は刈り取られ、敷地の片隅にきっちりと束ねられていた。
そろそろたい肥を与える時期なのだが、作業小屋を覗けばちゃんと用意され、数日中には作業が行われるのだとわかった。
ルブラン家の女性たちの森での真面目な働きぶりは有名で、サヤもそれはわかっているが、自分がいなくてもこうして順調に森が生きていると知れば、複雑な気持ちになる。
ルブラン家の中で、誰よりも森の知識が深いと自負し、責任を持って働いていた。
自分ひとりで森を守っているとは思わなかったが、自分がいなくとも森に影響はなかったのだと知れば、やはり悲しい。
自分の存在はちっぽけなものだと、ため息も出る。
「あら、サヤ? なによ、早速王太子様に捨てられちゃった?」
聞き慣れた声に振り向けば、サヤと同じくルブラン家に生まれたルイーズが、薬草が入った籠を手に、立っていた。
サヤと同い年のルイーズとはお互い本家とは遠い分家の生まれということで気も合い、ともに森の仕事をしていた。
一年ほど前に城下で衣料品店を営む男性と結婚したが、その笑顔を見れば、聞くまでもなく幸せそうだ。