王太子の揺るぎなき独占愛
「あ、そうそう。婚約おめでとう。サヤが次期王妃に選ばれて、あっという間に王妃教育とやらが始まったって聞いて、このままなにも言えずに王妃様になっちゃうかなと思ってたんだ」
「うん。私もびっくりしてる間に色々始まったから、誰にも挨拶できてないの」
サヤはそのことを気にかけていたが、ただでさえ結婚式までの予定が詰まっているのだ。
日々の予定をこなすだけで精一杯で、なにもできずにいた。
次第に声が小さくなるサヤの姿にルイーズは肩をすくめた。
学校に通っていたころは生徒会長も務めたしっかり者のルイーズ。
当時も彼女を頼ることが多かったサヤだが、今もルイーズを前にすると気持ちが緩みそうになる。
「あーあ。サヤは森から出たら、途端に弱虫になるから心配してたんだけど」
ルイーズは籠を足元に置くと、エプロンのポケットから小さな包みを取り出した。
「ロザリーの店のクッキーよ。良かったら持って帰る?」
「あ、ありがとう。最近、時間がなくて誰にも会えてなくて……うれしい。いいの?」
ルイーズの手から包みを受け取り広げれば、見慣れたクッキーがあった。
細かく刻まれたレーズンがたっぷり入ったクッキーは学生時代ルイーズと一緒によく食べたものだ。
「なつかしい。最近はクッキーもあまり食べてなかったな」
ふふっと笑うサヤに、ルイーズは顔をしかめた。
「クッキーどころか、食事はちゃんとしてるの? もともと細いのに、さらに細くなっちゃって。王宮って、ろくに食事もさせてくれない意地の悪いひとばかりなの?」
ルイーズはサヤの腕を掴み、「ほら、やっぱり痩せてる」とため息をついた。
王妃教育が始まって以来、サヤはゆっくりと食事をとることができずにいる。
王宮で出される食事はもちろんおいしく、サヤの好みも取り入れてくれているのだが、緊張しているせいか食欲がわかないのだ。
食事の時間を少しでも減らし、その時間を使って、教わったことを復習したり、ダンスの練習をしたいと思ってしまうのだ。
サヤの体調を気づかうジークがいい顔をしないこともあり、しっかりととるように努力はしているのだが、以前ほど食べられなくなっている。
王族の健康を管理しているルブラン家の人間にはあるまじきことなのだが、どうすることもできずにいた。