王太子の揺るぎなき独占愛
決してサヤを裏切ったわけではないが、あれをサヤが見て傷つかないわけがない。
もしもサヤが自分以外のオトコに抱きしめられている姿を見たとすれば……。
そう考えただけで怒りが溢れる。
たとえそれがなんの意味を持たないものでも。
レオンはふつふつと膨れ上がる怒りをどうにか鎮め、再びサヤに向き直った。
「サヤを裏切っていたわけじゃない。イザベラにも、思うオトコはいるんだ……これは今は関係ないな。とにかく、ジュリアの安全を第一に考えれば、イザベラに協力してもらわないといけないんだ」
レオンのまっすぐな瞳が、サヤを射る。
嘘やごまかしが感じられない力強い視線に、サヤはようやく表情をやわらげた。
そして、目の前にあるレオンの頬を指先で撫でた。
「この傷は、訓練でできたものですか?」
「あ? ああ、騎士団に入団したばかりのころ、山脈の警備の帰りに落馬してできたんだ。若くて公務もなにもかもをなめていて気が緩んでいたんだ。それ以来、慎重に取り組むようになってケガは滅多にないが」
サヤが気づいたレオンの傷痕は、頬にかすかに残る親指ほどの長さのものだ。
かなり前にできたもので、近づいてよく見なければわからない。
「どうした? 気になるか?」
サヤはもう一度、レオンの傷痕に触れた。
「イザベラも……。このような傷痕をいくつも持っています」
「ああ、そうだな。訓練でも男に負けたくないと必死で挑んでくるから、傷だらけだろうな」
レオンは、サヤの反応をうかがいながら、イザベラのことを口にした。
「だが、この傷がどうした?」
「同じような傷痕を持ち、レオン殿下と同じ時間を過ごしているイザベラが羨ましいのです」
「羨ましがる必要はないだろう。イザベラは俺のことはなんとも思ってないぞ。せいぜいが気の合う昔からの腐れ縁程度だろう」
訝しがるレオンに、サヤは小さく笑った。