王太子の揺るぎなき独占愛
「私は、イザベラには敵いません。馬にも上手に乗れませんし、剣を振ったこともありません」
「それは当然だろう? イザベラのように女性騎士として生きる女性は少ない」
どうしてサヤはイザベラと自分を比べるのだろうと、レオンは戸惑った。
やはり作業部屋でイザベラに抱きつかれたことを気にしているのだろうか。
「サヤ、やっぱりあのときのことを」
誤解がまだ解けていないのかと、レオンは慌てた。
「あ、違います。あのとき抱き合っているふたりを見たのはやっぱりショックでしたけど、今は信じています」
「そうか、ならいいが」
サヤは、明らかにホッとしているレオンを見てクスリと笑った。
「ただ、やっぱりイザベラの方が、今の私よりも王妃にはふさわしいと思うのです。ルブラン家の本家の娘としてたくさんのことを学び、王族の方とも親しくされています。それに、男性なら誰もが振り返るほど美しくて内面も素敵です。ルブラン家の集まりで顔を合わせる程度ですが、誰に対しても優しくて、そして強いのです。私の憧れです」
サヤはひと息に話すと、なにかを言おうと口を開いたレオンを、手で制した。
「そんなイザベラに私が敵うわけがないのはわかっていて、本当は、ふたりが抱き合っている姿を見たとき、私がレオン殿下と結婚してもいいのだろうかと悩んだのですが」
「違うだろう。抱き合っていたんじゃなくて、俺は抱き止めていたんだ。誤解するなよ。それに、俺が結婚するのはお前だ。四の五の言わずに俺と結婚しろ」
それまで黙ってサヤの話を聞いていたレオンが大声で叫んだ。
「まったく、どれだけ言えば納得するんだ。王妃にはサヤ以外考えられないから、陛下に早く退位してくれって頼んだっていうのに」
ぶつぶつとつぶやくレオンに、サヤは首をかしげた。
「頼んだってなんのことでしょう?」
「は? いや、なんでもない。と、とにかく、お前は俺と結婚して幸せな毎日をすごすんだ。俺がこの身を賭けて、幸せにするから安心しろ」
サヤに拒否権はないとばかりに強い口調で言い切るレオンを目の前にして、サヤは思わず胸をおさえた。