王太子の揺るぎなき独占愛




 ふたりは、その後も変わらず忙しい日々を送っている。

 ジュリアの結婚式がいよいよ一週間後に迫り、城内はかなり慌ただしい。

 彼女の嫁ぎ先である隣国ラスペード王国は、ファウル王国と並ぶ大国で、領土の多くが海岸線に接していることから漁業が発達し、他国との貿易も盛んだ。

 ジュリアの結婚相手である第三王子ステファノは、王位継承の可能性の低さからか伸び伸びと育ち、芸術面で秀でた才能を発揮している。

 ステファノが制作した彫刻や絵画にはかなりの値が付き、その多くは他国の王族に買われている。

 それだけでなく、運動神経が発達しているせいで乗馬の技術もたしかだ。

 騎士のだれもが騎乗をひるむ暴れ馬を難なく乗りこなす姿に憧れる女性は多かった。

 男性にしては華奢でスラリとした姿と笑顔が魅力的な整った顔。

 ラスペードの貴族の女性たちは、こぞってステファノの妃になるべく努力を重ねていたのだが、ステファノが選んだのは、ファウル王国のジュリア王女だった。

 婚約が正式に発表されて以来、落ち込み悔しがる女性もいたが、ほとんどの女性や貴族たちは、ふたりの婚約を好意的に受け止めた。

 なんといっても大国同士の絆を深めれば、平和で穏やかな時間がこの先も長く続くのだ。
 賛成しないわけがない。

 加えて、ジュリアの刺繍の腕前はラスペードにも知られていて、彼女が作り上げる、襟や裾に美しい刺繍をほどこしたドレスは大人気で、予約待ちが長く続いている。

 ドレスに縁のない領民たちも、アクセントとして小さな刺繍を加えたエプロンや帽子などの比較的安価なものを手に入れ、楽しんでいる。

 王家からの発表によれば、ジュリアは結婚後、ラスペードのあちこちで刺繍教室を開く予定になっている。
 貴族だけでなく領民たちにも刺繍を教えるということで、女性たちはその日を心待ちにしている。

 それはステファノの提案によるもので、ふたりの新居となる城の一室に用意された作業部屋と材料部屋の充実度はかなりのものとなっている。



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