王太子の揺るぎなき独占愛



「ジュリア様は本当に、愛されているんですね」

 サヤは刺繍針を動かす手を休め、うっとりとつぶやいた。

 ジュリアもサヤもそれぞれ忙しい毎日を送っているのだが、どうにか時間を合わせ、刺繍と菓子作りを互いに教え合っている。

 今日は朝からふたりで作業部屋にこもり、ビオラの刺繍に取り組んでいる。

 サヤは毎晩床につく前にひとりで針をさし、少しでもキレイなビオラの刺繍ができるよう努力しているのだが、まだまだ納得できるレベルではない。
 こうしてジュリアに教えてもらいながら少しずつ上達しているものの、レオンが即位式で着る軍服が届くまであと数日しかなく、焦っている。

 サヤは数日前に王城に居を移し、王族としての生活を本格的に始めているのだが、刺繍だけでなく、未だ及第点に及ばないダンスにも苦労している。
 レオンが手配したダンスの講師が毎日城を訪れ、サヤを特訓してくれるのだが、ハイヒールに慣れない足でステップを踏むのはなかなか難しく、絶えずバランスを崩しフラフラしている。
 少し前までは転倒することもあったことを考えれば、多少のふらつきはどうってことないのだが、王妃として人前で披露することを考えればそうも言ってられないと、最近のサヤは日常でもハイヒールを履いてすごしている。
 
 王妃教育の中で、今でも課題として残っているのはこの刺繍とダンスなのだが、それ以外の礼儀作法や座学は睡眠時間を減らしてでも熱心に学び、担当講師からは「これ以上お教えすることはございません」と言われるほど努力をした。
 
 そうはいっても真面目なサヤの不安が尽きることはなく、レオンから結婚後実践で完璧に身につければいいと諭され、ようやく落ち着いたほどだ。

「ほら、手が止まってるわよ。グラデーションの作り方はなかなか成長したけど、ひと針ひと針の大きさがまだ揃ってない」
「あ、はい、すみません」

 ジュリアの言葉にサヤは慌てて姿勢を戻すと、布と針を握りしめ、大きくうなずき気合を入れた。

 透明感のある冬の日差しがたっぷりと届いた部屋はとても明るい。
 刺繍や編み物の材料であふれた部屋はジュリアのお気に入りの場所だったが、これからはサヤが作り上げていく部屋となる。

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