王太子の揺るぎなき独占愛
城下の人たちと親しくなり、今では気軽に名前を呼んでもらえるようになったが、どこかで距離を感じていた。
医師の指示に従って薬を処方する貴族の娘。
生活するためにお金を稼ぐこともなく、ただ森の世話をし、王家のためにのみ動くお嬢様。
そう思われているのではないかと心のどこかで考えていた。
けれど、力強い言葉でサヤを助けると言ってくれたロザリーの瞳にはなんの陰りもなく、心の底からサヤを大切に思っているのがわかる。
「あ……ありがとう。私……」
サヤの目から、ポロリと涙がこぼれた。
「私、えっと、結婚……どうなるのかわからないけど、ちゃんと幸せに、幸せになれるように……がんばります」
サヤは手にしていた薬袋をロザリーに渡すと、手の甲で涙をぬぐった。
ロザリーの言葉が呼び水となり、サヤが心の奥に隠していた不安を解放してしまったのだ。
「でも私、結婚して森を離れるのがイヤで……ずっとこのままでいたいのに……」
これまで両親にも誰にも口にすることのなかった思いは単純だ。
森から離れたくない。
それは、森を愛しているという大きな理由以外にも、森にいればレオンを見かけることができるかもしれないからだ。
ほかのどの貴族よりも王家に近い場所にいられるとは言っても、立場はまるで違う。
王太子と単なる貴族の娘。
接点などないのだ。
遠くからでも見つめていられる時間はとても貴重で、手放したくないとサヤは思っている。
もしも他国へ嫁げばレオンを見つめる時間はなくなり、そして国内の貴族の男性を婿に迎えたとすれば、森の世話は続けられるが、これまでと同じ気持ちでレオンを見つめるわけにはいかない。
たとえ国王の命による結婚だとしても結婚相手を裏切るような気持ちを持ち続けるなんてできないのだから。
どちらにしても、レオンへの思いを封じなければならないのならば、いっそ結婚なんてしたくないと、叶わぬ願いを心に秘めていた。