王太子の揺るぎなき独占愛
「そうそう、これよ」
森の奥に流れる川沿いを歩いていたサヤは、彼女の膝辺りの高さの薬草に気づき、しゃがみ込んだ。
ファウル王国で古くから使われているその薬草は、『リュンヌ』という王家の森でのみ生えているものだ。
楕円形の大きな葉をクシャリと潰して傷口に当てれば菌が侵入するのを防ぎ、腫れを抑える。
消炎効果もあり、痛みもおさまるという万能の薬草だ。
煎じて飲めば頭痛にも効果があり、頭痛に悩む女性にも需要がある。
そのため、王族専属の医師だけでなく城下の医師もリュンヌを処方することが多く、サヤはいつもその生育具合に気を配っている。
「寒くなる前に全部収穫しておかなきゃね」
先端に広がる白く小さな花が風に揺れる姿はかわいらしく、つい口元をほころばせてしまう。
王家の森に初めて連れて来られた日のことはあまりにも幼かったせいで覚えていないが、初めて名前を教えられた薬草がリュンヌだったことはよく覚えている。
『これは特別な薬草なの。だから、森のどこに育っているのか、そしてちゃんと育っているのかどうか、いつも気にかけて、たしかめなきゃいけないのよ』
サヤの母親は、サヤと目線を合わせるように腰をおろし、まだまだ幼い彼女に言い聞かせた。当時、サヤはその言葉を理解できなかったが、リュンヌの需要の多さを知った今では、王族や国民のためにもその生育状態に気を配らなければならないと理解している。