王太子の揺るぎなき独占愛
すると、その様子を向かいのソファに座って見ていたレオンが、大きなため息をついた。
「そのクッキー、毒見は済んでいるのか?」
ソファの背に体を預け、呆れた声をあげるレオンに、シオンは首を横に振った。
「カーラが持ってきてくれたクッキーよ。毒見なんて必要ないわ。それに、退位が決まった陛下と私を殺しても、優秀なレオンがいるもの、どうってことないでしょ」
シオンはそう言って、ラルフとうなずきあった。
毒見をしている間に料理がさめてまずくなると言って嫌がることが多いラルフとシオンに困っているジークの顔を思い出し、レオンはくすりと笑った。
毒見をすることで、城で働く誰かが傷つくのも嫌だというのがふたりの言い分なのだが、一国を率いる立場にいるのだから仕方がない……とレオンも言い出せずに長い時間を過ごしてきた。
レオンが口にするものも、毒見は控えてもらっている。
王城で働く者、そして国民を信じていると、そのことによって伝えられればいいというラルフとシオンの真意を引き継いでいるのだ。
「レオンも食べる? このクッキーは、サヤも大好物だそうよ」
明らかにからかうような声でそう言うと、シオンはたくさんのクッキーが盛られた皿をレオンの目の前に寄せた。
細かく砕いたナッツが交じっているクッキーや、ココアの香りがするクッキーなど、素朴でおいしいものがたくさん盛られている。
「サヤ……?」
シオンの口からサヤの名前が出て、レオンは小さく反応した。
普段は甘いものは口にしないのだが、サヤの好物だと聞いて、興味が湧いたのだ。
ラルフとシオンの、好奇心を隠そうとしない視線に気づいてはいたが、一枚手に取り口にした。
ナッツの香ばしさが口に広がり、サクサクとした触感を楽しみながら味わう。
「ふふっ。サヤの力は凄いわね。公務にばかり時間を割いて、ちっとも人生を楽しもうとしないレオンが、クッキーをおいしそうに食べるなんて」
うれしそうなシオンにつられるように、ラルフも大きな笑顔を見せた。
それはシオンの側にいるときだけに見せる極上の笑顔で、息子であるレオンでさえ、そうそう見ることはない。
息子の目の前で仲の良さを隠そうとしないふたりに、レオンの中にこれまで知ることのなかった感情が生まれた。
それも、サヤのおかげかもしれない。