王太子の揺るぎなき独占愛
『森の天使ちゃんという呼び名は気に入らないが……。そうです。ダスティンの娘、サヤと結婚したいのです。といより、彼女以外の女性とは結婚いたしません』
迷うことなくなめらかな口調で話すレオンに、ラルフは圧倒された。
ここまで周囲に気遣うことなく自分の感情を見せるレオンを別人のように感じた。
『どうして、サヤなんだ? たしかに母親に似て美人だし王家の森については誰よりも詳しい。いつも王族の健康を気にかけてくれる優しい子だし、そうそう、最近では周辺国の貴族たちからも結婚の申し込みがかなりあるんだ。サヤが十八歳になった途端増えて驚いたぞ。社交の場に顔を出すことも滅多にないのになあ。魅力ある女性は誰もが放っておかないんだな』
ラルフはふむふむとうなずき、チラリとレオンに視線を向けると、肩を震わせて笑った。
『そこまで怖い顔をしなくてもいいだろう? お前がサヤを気にかけているのはなんとなく察していたが、ここまで本気でほしがるとは思ってなかったから面白くてな』
悪い悪いと言いつつ笑い続けるラルフに、レオンは肩を落とした。
『陛下、からかわないでください。おっしゃる通り本気でサヤと結婚したいと思ってるんですから』
『ははっ。あれか? 公務から離れたくてこっそりと森に行ったときにひと目ぼれでもしたか?』
『どうして、それを……』
ずばりと言い当てられ、レオンは驚いた。
なにかに行き詰まったときに森に行っていることは、知られていないと思っていた。
おまけに、生き生きと森で動き回っているサヤにひと目惚れしたことまでばれているとは……。
『ま、俺ではなく、シオンが森でお前を見かける機会が何度かあって、察したんだな。母親の勘、というのはあなどれないな』
こんなときまで、愛しげにシオンと口にするラルフに、レオンは苦笑した。
レオンが思い返す限り、シオンがレオンにサヤのことを尋ねたことはなかった。
レオンの結婚についてもとくに急かすことも、ふさわしいと思われる女性を勧めることもなかった。
見守っていたのだろうか。
ラルフ同様、いつも明るく弾けているシオンだが、一国の王妃だけあって本来の姿は芯が強く凛々しい女性なのだ。
レオンはなにも言わずそっとしておいてくれたシオンに、心の中で感謝した。