君のことは一ミリたりとも【完】
「高校の時、いつも無糖買ってたなって」
「……よくそんなこと覚えてるわね」
そういえば私が高校の時に皆勤賞だったのも何気に知っていたし、昔も私が陸上で短距離走をしていたのも何故か知っていた。
元々侮れない相手だとは思っていたけど、この男は私のことをどこまで知ってるんだろうか。
そして私はこの男のどこまでを知らないんだろう。
「……ふふっ」
そう思うと自然と笑いが込み上げてきた。彼の前で笑うのは初めてのことだったからか一瞬唐沢の顔がギョッとした。
その驚いた顔がまた可笑しく、私は笑いながら「いや」と、
「なんか可笑しくなっちゃって。なんで私たちこういうカップルの定番スポットになんか来てるんだろう」
高校時代にあんなに敵対していた唐沢とこういうデートスポットに来ているのは一周回ってなんだか面白く感じた。
「確かに、昔はあんなにも河田さんのこと嫌いだったのにな。この人は絶対に好きになれないって思ったもん」
「それ、こっちの台詞なんだけど」
「え、じゃあ今は好きってこと?」
「っ……」
不意に突かれ、私は彼の言葉にたじろいだ。
今の聞き方は予想していても避けるにも避けられない。