君のことは一ミリたりとも【完】
まさか仕事において生瀬さんが故意で私のことを選ぶなんてことはない。私の仕事が認められている証拠だ。
だから私がその提案を断るはずもなく、「分かりました」と返事をすると部屋を後にした。
しかし仕事とはいえ、出張は一泊2日。前までの私なら意識しないはずがなかった。
これまでは二人の関係もあってか、このような二人での出張に私を連れていくようなことはしなかった。彼は仕事とプライベートは割り切る人だから。
だから、生瀬さんも私のことはもう一人の社員としてしか見ていない。不安に思うことは何もない。
でも私がなくても他人からしたらそう思うこともあるのではないだろうか。
社長室を出た私は一番にスマホを取り出してある人へ連絡を入れた。
外の街路樹のイルミネーションを眺めながら温かい珈琲を口に含んでいると慌ただしい足音が聞こえて顔を上げる。
大きな鞄を持った唐沢はベンチに座っていた私に駆け寄るとはぁはぁと息を切らし、肩で息をしている。
「亜紀さん、突然すぎ」
「別にゆっくりでいいって言ったでしょ」
「でも外で待つって言ってたから、せめて何処かカフェに入ってよ」
「お金がもったいないじゃない」
俺が払うのに、と片手で顔を覆う彼を可笑しく思いながら私はほくそ笑む。
そう言ったらこの男は慌てて出てくるんだろうなというのは何となくだが予想はしていた。それを見たかったなんて口にしたら「悪女」とか何とか言われるのだろうが。
彼の息が整ったのを確認すると私はベンチから腰を上げる。
「亜紀さんから話したいことがあるって連絡来るの珍しいよね。結構重要な話?」
「さあ?」
「さあ?って、ご飯まだでしょ。どっかで食べながら話そうか」