君のことは一ミリたりとも【完】
その日、定時が過ぎたあたりで仕事を終わらした私がパソコンの電源を落としていると社長室から顔を覗かせた生瀬さんが私を捕まえる。
「河田、少しいいか」
「……はい」
社長室に招かれ、その扉を二回ノックすると中から彼の声が聞こえた。
中に入ると椅子に座ってノートパソコンの画面を見つめている生瀬さんの姿があった。
この人と二人きりになるのはいつぶりだろうか。
「突然悪い、伝えておかなければいけないことが出来た」
「いえ、何ですか?」
声のトーンを聞いて仕事の話だと直ぐに理解する。
「今度の大阪出張、元々菅沼を連れて行く予定だったんだが別の用事ができてな。そっちに回ってもらうことになった。代わりにお前を連れていく」
「え、」
出張、その言葉に私はその場で立ち尽くす。出張の話自体は菅沼から聞いていた。しかし確か生瀬さんと二人での出張だと聞いている。
ということは私と生瀬さんの二人で?
「その日外部との打ち合わせの予定も入ってないようだから大丈夫だろう。もし何かあるなら他の奴らに仕事を割り振ってくれても構わない」
「あ、の……どうして私なんですか?」
「何故か? お前が俺の右腕として一番に機能すると思ったからだが?」
その言葉を聞いてどこか安心した。ちゃんとした仕事のようだ