君のことは一ミリたりとも【完】



反射的にその名前に拒否反応を体が示す。


「やめて、ください……もう、終わったんですよ」

「亜紀……」

「生瀬さんは正しいです。別れるのが正解なんです。間違ってないんです」


あの関係が、間違いの始まりだったんだ。


「あの日、生瀬さんは私の目を覚ましてくれました。私たちがしていたのは間違いだったのだと」

「違う、お前と俺は愛し合っていたんだ」

「愛したことが間違いでした」


その言葉に私を抱きしめていた腕の力が抜ける。その隙に腕から抜け出すと距離を開けて彼と対峙する。
生瀬さんの温度を宿していないその目に私の姿は映っていないように思える。


「私は貴方を愛したことで他の大事なものを失うところでした。時間も常識も、親友も家族からの信頼も」


脳裏に優麻の笑顔が過って涙が溢れそうになるのを我慢する。


「好きってだけじゃ駄目なんです。好きな気持ちだけじゃ……」


私も貴方も、幸せにはなれなかった。それを彼も一番に分かっているはず。


「もっと早く千里と別れなかったのは謝ろう。だけどまだ遅くない、今からでも俺は」

「お腹の中の子供はどうするんですか?」

「……」

「生瀬さんの子供なんですよ!?」



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