君のことは一ミリたりとも【完】
抱きとめられた胸から彼の心臓の鼓動が聞こえてくる。この人にもこんなに脈が早く打つことがあるんだ。
彼の低いテノール声が耳元で響く。
「本当に悪かった、お前を傷付けた」
「……」
「あの日、千里から妊娠したことを聞かされて……このままではお前とは一緒にいられないと思った。だから、勢いであんなことを言ってしまった」
久々に感じた生瀬さんの体温に、あの日のことが鮮明に蘇る。
彼から告げられた話に血液が冷たくなって、目の前が真っ白になったのを今でも覚えている。
「初めてお前が取り乱すのを見て、酷いことを言ったと思った。だけどこれで良かったと、そう思っていたんだ」
「……」
「でもお前と別れてから、お前に対する感情は大きくなるばかりだ」
どう、して……どうしてそれを今言うの……
あの時、どうしてそれに気付いてくれなかったの。
どうして、もっと早く奥さんと離婚してくれなかったの。
「亜紀」
「っ……」
掠れた声で呼ばれた下の名前に、私は力強く彼の胸板を叩く。
「名前でっ、呼ばないで……!」
「……」