君のことは一ミリたりとも【完】
怒ったけど、と小さな声で呟いた彼女に優しく微笑みかけた。
「疲れたでしょ、ホテル取ってるから行こう」
「え、泊まるの!?」
「だってもう帰りの新幹線ないよ」
自然と彼女の手を取り、ホテルの方向へ歩き出す。本当は早くその涙の意味も生瀬と何があったのかも聞き出したいけど今は彼女の気持ちを落ち着かせるのを優先したい。
珍しく手を繋がれても大人しくする亜紀さんに「やっと心が繋がったのか」と実感した。
ホテルは所謂ビジネスホテルだが、念の為とツインの部屋を取ってて良かった。
亜紀さんは「え!?」と驚きの声を上げてきたけど。
「同じ部屋なの」
「だって予約取ったのギリギリなんだもん。寧ろタブルじゃなくて良かったでしょ」
「……」
亜紀さんの顔を見るからに何か思い出すことがあるのか、不安そうな表情を浮かべる。
俺はそんな彼女の手を強く握ると「大丈夫だから」と、
「何もしない。心に誓うよ」
「……アンタの言葉いちいち軽いから信じてない」
「酷いなぁ」
「けど、今日のところは仕方がないから」
そう言ってフロントで部屋のキーをもらうとエレベーターホールへと歩き出す彼女。
前だったら絶対嫌がられていただろうなとここ最近の自分の努力が実を結んだようで嬉しかった。