君のことは一ミリたりとも【完】
私に可愛げを求めてくるあたり、残念としか言いようがないけれど。
「もし何かあったらって思うと仕事が手につかなくなっちゃうし」
「それ、狡い」
「あ、分かる? 仕事人間の亜紀さんにはこれが一番効果あるかなって」
相変わらずの性格の悪さに呆れながらも、それは私のことを本当に心配してくれているからこその説得なのだろう。
度々気付いていたけどこの男、少し過保護な面がある。そういえば生瀬さんも少し私に対して過保護だったっけ。
「……じゃあ、取り敢えず様子見で3日ぐらい」
「分かった。というか亜紀さんお風呂上がってまだ髪の毛乾かしてなかったんだね。風邪引くよ」
「すぐ準備するから待ってて」
そう言うと彼は「ゆっくりでいいよ」と満足したような表情で微笑んだ。
三十分後、身支度を揃えた私を乗せて唐沢は車を自宅へと発車させた。
「運転の練習しててよかった」
「……」
取り敢えず3日分の服と仕事鞄は持ってきたけど、急だったのでその他は家に置いてきてしまった。
大抵のものは俺の家にもあるから、と言う彼の言葉を信じてきたけど、本当に大丈夫なんだろうか。
車を走らせること15分。「ここだよ」と唐沢は駐車場に車を止めるとエンジンを切った。
近くに住んでいるとは聞いていたけど、まさかこんなに近いなんて。