君のことは一ミリたりとも【完】
私たちの話を聞いて微笑ましく思ったのか、母は「仲良しね」と顔をあからめ、父もどこか唐沢の存在を認めているような表情を浮かべていた。
どうしてこんな展開になっているんだろう。ただ確信できるのはこの流れに持っていっているのは間違いなく隣に座る胡散臭いこの男だ。
両親が上機嫌になるにつれ私の機嫌が悪くなっていっていることに気付いているのか、私に向けられる笑顔がどこか嘲笑っているように思える。
とにかく今すぐここから離れたい。だけど唐沢一人放ったら何を言い始めるのか分からないし。
暫く唐沢の仕事に関することなどの雑談が続いたあと、突然咳払いをした父がとんでもないことを言い始めた。
「ところでもし結婚をするとしたら時期はいつぐらいになりそうかな」
「けっ……」
結婚!?、と飛び出したワードに驚いたのか、流石の唐沢も目を丸くした。
母も父の言葉を否定せずにうんうんと頷いているのを見て愕然とする。なんて早とちりな両親なんだ。
「だから今日は別にそんなんじゃないってば。結婚だってまだしないし」
「でも亜紀もう26歳でしょ? 二十代のうちにはウェディングドレス着たくないの?」
「それは私が決めることでお母さんが決めることじゃないでしょ」
というか唐沢と付き合い始めたのだってまだ最近だし、一年も経っていないのに。
私が話を聞くつもりがないのを見て、母の標的は隣にいた唐沢に向けられてしまった。
「唐沢くんはどう思う? 結婚とか考えているの?」
「……俺は、」
動揺が見て取れる唐沢の声に視線を向けると「余計なことは絶対言うな」と目だけで訴え掛ける。
すると唐沢は一呼吸置き、ゆっくりと自分の言葉を吐き出した。