君のことは一ミリたりとも【完】
車に乗り込むと彼は「よかったね」と私に向けて微笑む。
「いい感じに気に入ってもらえて」
「あれだけ相手のこと持ち上げてたら誰でもそうなるでしょ」
「あれ、亜紀さんは喜んでくれないんだ?」
「別にどうでもいい」
だけど今回の危機を救ってくれたのは唐沢でそのことについては感謝を伝えたかった。
なのになかなか「ありがとう」の一言を口に出せなくて、助手席でもどかしい思いを抱えている。
そうだ、せめて夕御飯は奢ってあげたらいいのでは?
「家帰る頃はもう夜遅いし、夕御飯何処かで食べて帰る?」
「ん? あー、そうだね」
「……なに?」
煮え切らない返事を不思議に思うと彼の口から思い掛けない言葉が発せられた。
「出来たらでいいんだけどちょっと寄り道して帰らない? 行きたいところあるんだよね」
「え、いいけど。何処?」
「それは着いてからのお楽しみ」
そう言ってほくそ笑んだ彼に自然と不安が募る。私を何処に連れていくつもりなんだ、この男。
運転中の車から降り立つことも出来ず、彼に行き先を委ねることしか出来ない私は大人しく助手席で目的地に着くことを待った。
30分後、彼が車を止めたのは古い日本家屋の家の前だった。
窓から外を覗いた私は家の表札を見て言葉を失う。