君のことは一ミリたりとも【完】
突然のお誘いにどうしようかと隣に座っていた彼に目配せすると、唐沢は「亜紀さんの好きにしていいよ」と目だけで伝えてきた。
「それじゃあ、ぜひ」
「よかった。直ぐ準備するから待ってておくれ」
おばあさんが腰を上げて台所へと向かっていった背中を見つめていると今度はおじいさんが唐沢に声を掛けた。
「爽太、久しぶりに打つか」
「うん、いいよ。言っておくけど俺、前より強くなってるから」
「お手並み拝見だな」
そう言って二人は縁側へと移動するとそこに置かれていた将棋盤と向かい合った。
唐沢は将棋も打てるのかと二人の対局を遠くから見据える。
「わー、そこ打つ? じゃあこっちかな」
「ほほ、相変わらず手強い手を使うな」
祖父と孫が戯れる微笑ましい様子を眺めながら、ざっと部屋周辺を見回した。
ここが唐沢が小学生の時から暮らして、過ごしてきた家。私と出会った高校生の頃もこの家から登校していたんだ。
そんな場所に自分がいることが凄く不思議に感じる。唐沢もさっき私の実家にいた時、そんな気持ちだったんだろうか。
将棋のルールが分からない私は二人の対極に早々飽き、立ち上がって台所へと歩を進める。
白い割烹着姿で夕食の準備に励んでいるおばあさんに後ろから声を掛けた。
「あの、手伝います。私に何か出来ることがあれば」