君のことは一ミリたりとも【完】
駄目だよ、と念押ししても彼はただひたすら微笑むだけで、そんな姿を見ていたら私も釣られるように力が抜けた。
今、ようやくなんの蟠りもなく、彼の前にいられてる気がしてる。
本物の私の姿で。
だから次は私の番だ。
来たるその日、高級マンションのインターホン前で固まっている私の肩を突いた唐沢が心配そうな表情で顔を覗き込んでくる。
「大丈夫? 無理しない方がいいんじゃない?」
「む、無理なんかしてないし。舐めないでよ」
「いや、でも指震えてるし。そんなに優麻ちゃんに俺のこと紹介するのが緊張する?」
緊張、という感情なんだろうか。何も怖いものはないはずなのに。
次の休みの日、私は思い切って優麻に唐沢との関係をハッキリと告げようと心に決めた。
やっぱり優麻には嘘は付きたくない。それに唐沢と一緒にいると決めたのだからいつかは伝えないといけないことだった。
きっとこれは緊張じゃなくて、昔からの私を知っている優麻に私の心境の変化を伝える恥ずかしさだ。
私は唐沢の言葉を振り切るようにインターホンへ手を伸ばすとゆっくりとボタンを押し込んだ。
優麻には家をお邪魔することは伝えてあったが唐沢も一緒に来ることは伝えていない。
遂にその時がすぐ近くにまで近付いてきている。
「言っとくけど、アンタが恥ずかしいってことじゃないからね」
「え、」
「この日まで一緒にいてくれて、その、一応ありがと」
「……」