君のことは一ミリたりとも【完】
彼女の言葉に腕を組んで当時のことを思い返してみる。告白されて付き合ったことはあったけど結局卒業した時は誰とも付き合っていない状態だった。
好きだった人、という風に考えてみても誰かを好きになった記憶はあまりなかった。
「いないんじゃないかな、特に気になる人も思い当たらないし」
「そう、ですか!」
「なんか嬉しそう?」
「いえ!」
なんでもないです!と笑顔を見せる彼女に意味も分からず頭を傾げているとそろそろ会社を出なければならない時間となった。
俺は後の仕事を加奈ちゃんと竹村に引き継いで同窓会が開かれる会場へと向かうことにする。
「何か分からなくなったら遠慮なく電話して? こっから近いところにいるから」
「そんな邪魔しませんよ。楽しんできてくださいね」
加奈ちゃんは元々女性ファッション誌の編集をしたかったらしい。初めてこの部署に配属された時、あまりにも場違いすぎてやっていけるのか毎日不安そうな顔をしていた。
しかし今ではしっかりと仕事を任せられるぐらいには一人前に成長した。
後輩も育ってくれたし、仕事も忙しいけど充実してる。26歳にしてこれは順風満帆とも言えるのでは。
ただ一つ不満があるといえば忙しすぎてプライベートが疎かになっていることだろうか。今の部署に移ってから女性との交際は一度もない。
多分俺には結婚なんて程遠いだろうな。しかし自分に「女性」の存在がなくても生きていけることは理解していた。
なるようになる、流れに身を任せる。それが上手く生きていくコツだとだいぶ昔に思い知ったのだった。
ただ少し、高校時代は周りに振り回された感を否めないけど。
会社を出ると高校の時の友人から連絡が来ており、「今から向かう」と返すと俺は足早に目的地へと向かった。