君のことは一ミリたりとも【完】
「(高校、ね……)」
話の途中、たまに夢に出てくる彼女のことを少し思い浮かべた。しかし顔が浮かぶ前に塵のように消え去ってしまう。
彼女も今日来るのだろうか。俺には関係のないことだろううけど。
会場に着くと高校時代の友人が俺に向かって控えめに手を振っていた。
「一週間ぶり、仕事終わり……だよな」
「まぁね、爽太も忙しそうなのによく来れたね」
「納期は一応過ぎてるから。それより優麻ちゃん残念だったね」
随分行きたそうにしてたのに、すると聖は「そうかもね」と指輪が付いた方の左手で前髪を触って整えた。
「けど今一番大事な時期だから。予定日そろそろだし」
「付いてあげてた方がいいんじゃないの?」
「いや、様子見てきてほしいって。じゃなかったら俺だってこんなところ来てないよ」
確かに聖の性格のような人間は好き好んで同窓会になんか参加しないタイプだろう。だから行くとしたら嫁に言われてくるとか、そんなことぐらいしか思い浮かばない。
会場入り口の前でそんな立ち話をしていると周りから女性の視線がチラチラとこちらに向いていた。
「だけど聖が来なかったら悲しむ女子多いと思うけどなぁ……」
それもそのはず、今俺の隣に並んでいる友人は高校時代、学園の王子様とまで言われて人気だった生徒なのだ。