君のことは一ミリたりとも【完】
こんなに辛い思いをするならば出会わなければよかった。
あの日、彼の手を取らなければよかった。
愛さなければよかった。
「……誰、か」
身体中が熱い。力が全く入らない。頭が締め付けられるように痛くて、目の前が霞む。
ポケットの中からスマホを取り出すと連絡先を開く。一番初めに出てくる彼の名前にはぁと熱い息を吐いた。
「(菅沼は、駄目だ。大丈夫って言った手前これ以上心配をかけられない……優麻はまだ病院だし……)」
濡れた髪を拭こうとして反対側のポケットに手を突っ込む。
するとハンカチを取り出した瞬間に一切れの硬い紙がジャケットから飛び出した。
そこに書かれていたのは唐沢の名前とその連絡先だった。
「これ、この間アイツに貰った名刺……」
この際もう誰でもいい、このまま野垂れ死ぬのだけは嫌だ。
私はその名刺を拾うとスマホで書かれてあった電話番号を打つ。
「(3コールで出なかったら切る。3コールで出なかったら切る)」
そう心に決めてコールボタンを押した。静かに耳に当てて応答を待つ。
一回、二回……
《もしもし?》
「っ……」