クールな社長の溺甘プロポーズ



父方の家系は【澤口製作所】という、祖父の代から続く自動車部品工場を経営している。

身内と十数人の従業員で経営しており規模は大きくないけれど、緻密で精巧な技術が業界内でも高く評価されているらしく、国内でも有名な自動車メーカーを得意先に持つほど。



自身がそれなりの年齢になってきたことから、そろそろ次期後継者として社長候補を育てたいところ……が。

うちは私と妹のふたり姉妹。おまけに妹は20代初めにお嫁に行ってしまい、現在旦那さんの実家のある北海道で暮らしている。



残るは私の結婚相手、ということで、度々こうして結婚だ婿だと急かしてくるのだ。



「従業員の誰かに継いでもらえばいいでしょ。それに会社を継がせるために結婚するなんてイヤ」



そう。今時身内経営にこだわらなくてもいいと思う。

それにただでさえ結婚なんてできる気配がないというのに、恋人ができたところで『婿に入ってうちの会社を継いでほしい』なんて言ったら逃げられてしまいそうな気もする。

そんな気持ちもあり、きっぱりと拒否を示す。



「そもそも私は今仕事で手一杯だし、結婚なんて考えてないから。だからほっといて!」



ここが会社のトイレだということも忘れて大声で言うと、電話の向こうは一瞬静かになる。



『……そうか、なら仕方がないな』



そして聞こえたのはしおらしい声。

よし、やっと諦めてくれた。どうせまたいつものように、少し経ったらこうして電話してくるのだろうけど。

そう思ったけれど、父が続けた言葉はいつもと違った。


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