クールな社長の溺甘プロポーズ
それからまた仕事を再開させ、バタバタと慌ただしく業務に追われるうちに定時を過ぎてしまい、仕事を終え帰ろうとオフィスを出たのは19時すぎのことだった。
「はー……疲れた」
気の抜けた声を出しながらエレベーターに乗り込むと、肩ほどまでの茶色い髪をかき、凝った首を回した。
今日は夕飯どうしよう。コンビニ?スーパー?まだお弁当残ってるかな。
仕事ばかりで料理などまともにしないことがほとんどで、自炊という言葉は出てこない。
もちろん片付けさぼりがちなものだから、私の2DKの部屋は積み上げられた服や雑誌で散らかり放題だ。
あ、そうだ。今日は近所の居酒屋にでも寄って軽く飲んでから帰ろうかな。
働いた後のお酒とおつまみは最高だし。うん、そうしよう。
想像し、ふふ、とにやけているとポン、という音とともにドアが開く。
そこから降りると、ビル1階のエントランスには同じ建物に入っている他社の社員たちが行き交っていた。
ライトグレーのパンプスをコツコツと鳴らしながら、その中に紛れるように歩く。
すると、やけに周囲がざわついていることに気がついた。
ん?どうしたんだろう?
不思議に思い見れば、人々……特に女性たちの視線は一箇所に集まっている。
どこかのお偉いさんでも来ているのだろうか、と私もついその方向へと目を向けた。
するとそこにいたのは、エントランスの出入り口である自動ドアの近くに立つひとりの男性。
真っ黒な髪を右で分けた彼は、二重の目、筋の通った鼻と形のいい薄い唇、とまるで芸能人のような綺麗な顔立ちをしている。
すらりと背も高く、質の良さそうなグレーのスーツに身を包んだ彼は黙って立っているだけで上品さを漂わせていた。