クールな社長の溺甘プロポーズ
「……そんな約束のために、あなたがそこまですることないでしょ。約束を守れなかったのは私なんだから、責めればいいじゃない」
あなたが優しいから、まっすぐだから、苦しくなる。
それ以上目を合わせることができなくて、下を向いてしまう。
「大倉さんも呆れたでしょ。本当に仕事のことしか頭にないのか、って。食事の約束ひとつも守れないのかって」
俯いた視線の先には、大倉さんの茶色い綺麗な革靴と、つま先が少し汚れたグレーのパンプス。
それは、爪先まで余裕のある彼と、いつも余裕のない自分を表しているかのようだ。
そんな自分が情けなくて、ついこのまま泣き出してしまいそうになる。
けれど、ここで泣きだすのはずるい気がして、拳を握って涙をこらえた。
そんな私に、大倉さんからは腕が伸ばされる気配がした、かと思えば次の瞬間には私は彼の腕の中にいた。
「大倉、さん……?」
突然抱きしめられたことに、驚き、どうもできない。
彼は夜とはいえ人通りのある駅前で、人目を気にせず抱きしめる。
「……嘘、ついた」
「え……?」
「会いにきたのは、約束のためじゃない。俺が星乃に会いたかったから」
『会いたかったから』、?
大倉さんが、私に?
「それと、星乃が自己嫌悪に陥ってるかもしれないと思ったから」
彼がつぶやく言葉に、心の中を読まれた気がした。
本当に、なんでもお見通しだ。
むかつくくらい、敵わない。
観念して、私はそれまで肩に込めていた力を抜き、その胸に体を預けた。そんな私の体も、彼はしっかりと受け止めてくれる。