クールな社長の溺甘プロポーズ



「……そんな約束のために、あなたがそこまですることないでしょ。約束を守れなかったのは私なんだから、責めればいいじゃない」



あなたが優しいから、まっすぐだから、苦しくなる。

それ以上目を合わせることができなくて、下を向いてしまう。



「大倉さんも呆れたでしょ。本当に仕事のことしか頭にないのか、って。食事の約束ひとつも守れないのかって」



俯いた視線の先には、大倉さんの茶色い綺麗な革靴と、つま先が少し汚れたグレーのパンプス。

それは、爪先まで余裕のある彼と、いつも余裕のない自分を表しているかのようだ。



そんな自分が情けなくて、ついこのまま泣き出してしまいそうになる。

けれど、ここで泣きだすのはずるい気がして、拳を握って涙をこらえた。



そんな私に、大倉さんからは腕が伸ばされる気配がした、かと思えば次の瞬間には私は彼の腕の中にいた。



「大倉、さん……?」



突然抱きしめられたことに、驚き、どうもできない。

彼は夜とはいえ人通りのある駅前で、人目を気にせず抱きしめる。



「……嘘、ついた」

「え……?」

「会いにきたのは、約束のためじゃない。俺が星乃に会いたかったから」



『会いたかったから』、?

大倉さんが、私に?



「それと、星乃が自己嫌悪に陥ってるかもしれないと思ったから」



彼がつぶやく言葉に、心の中を読まれた気がした。



本当に、なんでもお見通しだ。

むかつくくらい、敵わない。

観念して、私はそれまで肩に込めていた力を抜き、その胸に体を預けた。そんな私の体も、彼はしっかりと受け止めてくれる。


< 121 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop